衝撃の映画『息衝く』

  • 2018.09.20 Thursday
  • 17:07

img230.jpg

 

img228.jpg

 

原発・宗教・家族 ― 六ケ所村から東京へ。社会と個の関わりを問い続けてきた木村文洋が描く、3.11以後の日本のすがた。

 

この間、話題の映画『息衝く』(木村文洋監督作品)を観た。この作品は核燃料再処理工場がある青森県六ケ所村を舞台に、そこに生きる家族の決断を描いた前作「へばの」(08)と対をなすものとして既に当初から構想にあったもので、田無タワーのある東京(田無)に生きる30代の青年たちの物語である。

青年たちは「種子の会」と称する大新興宗教団体に属する生育環境を共通してもっている。理想と現実の間に揺れ自らの信念を問い続けながらも団体の中で生きる則夫と大和、「種子の会」を離れ、母親となって独りで子を育てる慈。彼らには幼少期より絶対的に信頼を寄せる父親的存在がいた。「ひとは独りで生きていけるほど強くない。世界ぜんたいの幸福を願うときこそ、個であれ・・・」とそういったかつての「種子の会」のカリスマは疾走し三人から姿をくらました。

映像はそのカリスマ的存在である森山に会うためにひた走る車中のようすではじまる。背景には貧しさと差別、新宗教に救いを求めざるを得ないよるべない状況がある。

原発・宗教・家族を軸に捉え、この社会でいかにして個として生き続けることができるのかを問う大きなスケールを感じさせる衝撃的な作品といえる。それゆえに並々ならぬ監督の決意と熱情が感じとれる映像が随所にみられ強烈な印象を与える。

「地下鉄サリン事件」オウム真理教を題材にして幹部・平田信の逃走を助ける女性の実話から社会と個のかかわりを描いた「愛のゆくえ」(12)という作品もあるけれど、否応なく政治や宗教や家族の問題が浮上することになる。この映画の制作を前にして木村文洋監督は一年の間「創価学会」に入信する経験をもっている。

 

宗教と政治、個と集団、理想とする社会の実現を願い懸命に生きる姿を通してみえてくる目的と手段の転倒。まさしく日蓮宗の重要な教義ともいえる「依法不依人」の真理が問われているのかもしれない。いや、だとすれば親鸞や法然の浄土系仏教の視点でみれば捉え方も異なるはずで自然や身体性の見方も必要となるだろう。そうなればますます複雑で多様なあり方が問われていいように思う。

現代が抱える社会病理と矛盾、この閉塞した状況を真正面から描こうとする作品であるがゆえにその描き方には賛否両論あるしあっていいともいえる。一概にいい切れる単純な回答があるはずもなく、ぼくたちは大きな問と大きな課題を突きつけられることになる。

したがって、この映画に決して救いはない。あるのはこの問いに対してとことん向きあい考え続けることで個としての哲学的な命題に対峙するほかないのだ。

今の政治状況をおもえば思うほど社会が抱えるこの現実的な難問に正面から向きあった稀有な作品だといえる。

だが、このことはぼくたちの日常の淀みに心地いい新風を吹き込む力のある作品ということもできるだろう。

 

鎌田哲哉 木村文洋 依法不依人 生衝くにおける宗教と政治 批評誌Resurrections.jpg

『依法不依人』についてー『息衝く』における宗教と政治(鎌田哲哉&木村文洋 批評誌 Resurrections)

 

かまだ・てつや

1962年北海道生まれ。最近の批評文に「木村文洋のりんご」(『息衝く』パンフレット)「憤ることと物のあわれを知ること」などがある。

 

 

家族の絵

  • 2018.09.12 Wednesday
  • 13:10

あたらしい子がきて(小2)

 

 生まれたばかりの赤ちゃんを囲んでみんなうれしそうですね。ほのぼのとした感じが伝わってきます。

 

畑のお手伝い(小2)

 

お母さんの畑仕事を手伝っていますね。何が収穫できたのかな。

 

母と姉(小4)

 

なんとなくピカソ風でおもしろいです。思い切った造形的センスが際立っていますね。

 

りんご狩り(小2)

 

りんごをもぐときの格好とかもう少し動きがあると良かったですが頑張ってよく描いています。

 

ぶどう狩り(小1)

 

あははは、これおもしろいですね。後ろの‟おまけ”みたいな人、お父さんかな・・・?でも、気持ちでていますよ。

 

これらはみんな家族をテーマに公募された香月ジュニア大賞絵画展に出品する作品です。このほかにもいろいろな楽しい作品が・・・

むずかしいテーマなのでみんな苦労していましたが何とかできあがりました。

 

Oくんと再会

  • 2018.09.10 Monday
  • 10:49

この春、京都精華大のマンガコースに進学したOくんがご両親と一緒に教室を訪ねて来てくれた。

この大学のマンガコースに進んだのは彼が初めてで、学部や大学の日々のようすなどいろいろ話してくれた。これまでこなした課題も少しばかり見せてくれこの休みに描いた作品も持ってきてくれた。

 

 

 

これ等の作品を見ていると楽しそうにやっていることがよく分かるし、久しぶりにみるOくんは表情も柔らかくなっていて少し自信もついてきたようにも感じられて嬉しかった。

中学時代のトラブルやいろいろな事情もあったのでちょっと気になっていたのだが充分やっていけるはずだと励ましてきたのだった。彼はこれからやることがいっぱいあるし過去のことはいいから先のことに向かって多くの経験をつんで成長していけるといいなとも思っている。

 

「後期がはじまるまで間があるけど京都に帰って何をする?」というと、課題も一つ残っているしやることもあるという。「田舎にいてもやることもないし・・・」というので確かにそうだろうなとも思う。

 

 

 

学生という特権的身分はうらやましい限りだが4年間はあっという間に過ぎていく。さらにさらに大きく成長してほしいものである。

 

 

POOHちゃん

  • 2018.09.07 Friday
  • 20:17

真夜中の12時を過ぎると早朝ということになるのだろうか、それにしても潮目というのは本当にあるものなんだなぁ・・・。ちょうど干潮の時刻にぼくらが慣れ親しんだ愛描POOHちゃんが息を引き取った。今日の0時20分に錦蔵のもとへと旅立った。

POOHはもともとノラ猫で、以前わが家で飼っていた錦蔵を慕ってやってきた猫だった。容姿はきれいで若々しかったが臆病な奴で人の気配をいつも気にするところがあった。だが、どういうわけか錦蔵とは気が合うのか気ままに遊ぶことができた。

 

IMG_0478.jpg

 

IMG_1147.jpg

 

IMG_1157.jpg

 

IMG_1113.jpg

 

IMG_1160.jpg

 

IMG_1604.jpg

 

錦蔵は息子が小学一年のときに拾ってきた猫で息子の成長を見守るようにわが家で一緒に暮らした犬のような猫だった。人懐っこい奴で近所の子どもたちからもキンちゃんキンちゃんと呼ばれていた。ぼくは錦蔵からいろいろなことを学んだような気がするのだが17で死んだ。

もう少し生きてPOOHちゃんにもいろいろ教えてほしかったのだが、それでもPOOHもいつの間にか気のゆるせるようすでぼくらとも接することができるようになっていた。たまに帰ってくる息子も「POOHは変わったな」と驚くほどになっていた。


ひと月くらい前から食事の量が減り歯槽膿漏のように歯茎が炎症して痛むのかときどき「エッ!」という奇声を発する時があったので錦蔵の主治医でもあった赤岸先生に診てもらった。エイズに感染しているのかもしれないが抗生物質と栄養剤を注射しながらようすをみることになった。家猫というわけでもなく外にも出入り自由にして飼っていたが感染する可能性もそれだけあるということらしい。二週間くらい前のときは採血して同じように注射して検査結果をみることになった。後日、連絡がありやはりエイズ感染症で毎日点滴に来てくれということだった。

だが、ぼくらは通院によるPOOHのストレスと錦蔵の前に飼っていた猫ハリコのときの経験から毎日の点滴は無理だと判断して見守ることにしたのだった。食事はほとんど食べられなくなっていた。

 

根っからの性分なのか野生の血がそうさせるのかPOOHは今年の猛暑の日でも外でゴロンとして過ごした。家の中では三種類の流動食を用意して食べさせようとしたのだがほとんど食べられなかった。食べたいのに食べられなかったのかもしれないが水だけ飲んで外へ出ていった。

最期の数日間は外といっても隣の敷地でぼくらの眼のとどく所にいたが雨の時には姿を見せなかった。どこか安全な場所があるのだろうと思っていろいろ探してみたのだが分からなかった。

一昨日の夜には少し離れたところでやや下がった場所にある柿木の傍でじっとしていた。辛そうにも見えた。POOHちゃんと呼びかけると「ゥえん」と反応するだけで振り向くことはなかった。呼びかけないでほしいという感じもしたので見守るだけだった。

夜寝る前に確認にいくとそこにはいなかったので慌てて懐中電灯を当てると隣の敷地のすこし手前でじっとしてこちらを見ていた。

一段下の柿木のところからよくあそこまであがれたなあと感心したり家の中でゴロンしていたらいいのになとふたりで話したが仕方のないことだった。今度はカミさんが見守りにでると姿がなかった。ハリコのように姿を隠すことを心配したが翌朝さがすことにした。

朝起きて7時ごろにぼくがさがしているといつものところの一歩手前でPOOHはうずくまってじっとしていた。その日は雨の予想であのまま死なせるのは可哀想だとおもい夕方には家に連れて入ることにしていたが、近所のおばさんたちが騒ぐので気にしているとまた姿を隠してしまった。だが、近所のおばちゃんが隣の床下に入るところを見てくれていた。それはPOOHにとっては安全で雨をしのげる最適の場所だった。

 

その後、ぼくは留守をしたがカミさんの呼びかけでPOOHは床下からやっとでてきてくれたという。カミさんはそのまま抱えて家の中に連れて入りぼくが帰ったころにはPOOHは静かに横たわっていた。

ぼくが三時半に帰って抱えて家の中に連れ戻すつもりでいたのだがひと通りの話をカミさんから聞いた。食事の用意をしている間、ぼくはPOOHに呼びかけいろいろなことを思い浮かべていた。よく頑張った、楽になっていいよ、安心しろ、キンちゃんが待っている、などと意味不明のことばで呼びかけた。POOHもウ―、うー、と云ったような気がした。

 

意識がもうろうとした中でのやりとりだったかもしれない。ぼくらはPOOHはもう無理かもしれないとふたりで話し覚悟はしていた。潮の干満を調べてみると福岡や大分が23時50分ごろとなっていたので24時前後がヤマかもしれないと思ったがその通りになってしまった。POOHは15分くらいの昏睡状態のあと静かになった。いい猫だった。

 

3人3様

  • 2018.09.05 Wednesday
  • 13:59

 

 

 

ブドウの絵ができあがりました。

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< September 2018 >>

原田美術教室の活動


♛ 第16回絵画のいろは展
2023年11月15日wed〜11月19日sun
10:00〜18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール


この展覧会は、絵を描きはじめて間もない人から山口県美展・岩国市美展など他の美術コンクールや個展などで活躍している大人に加えて、これまでTRY展として活動してきた子どもたちを含む初心者から経験者までの作品を一堂に展示する原田美術教室の研究生およそ20名で構成するものです。 アトリエや教室での日ごろの研究成果を発表すると同時に、人と人、表現と表現のふれあうなかで単に技術の習得のみならず、絵を描くことで何を考え、何を発見することができるかということから、「文化的な営みと豊かさ」あるいは「活力と潤いのある生活」とは何か、という問いについて考える契機となることを願っています。 「絵画のいろは」とは、このように制作上の技術の問題だけでなく、日常生活での活力や潤いのある生活のあり方を考える実践的問いかけに他ならないのです。 特に今回は子どもたちの作品を含めて広く深くそのことを考える風通しのいい構成となっています。研究生として親睦を兼ねたコミュニケーションを大切にし、互いの作品を認める楽しさや表現の多様性について考え、アートのおもしろさを伝えることで地域の芸術文化活動の普及と発展に寄与したいと願うものです。














子どもの作品が大人気








♛ グループ小品展2024
2024年10月3日(水)〜10月6日(日)
10:00−18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール



この展覧会グループ小品展は、絵を描きはじめて間もない初心者から山口県美展・岩国市美展など他の美術コンクールや個展などで活躍している経験者までを含む原田美術教室の研究生で構成され、絵画のいろは展とともに隔年で開催するものです。 今回のグループ小品展では、日ごろの研究成果を発表すると同時に、人と人、表現と表現のふれあうなかで単に技術の習得のみならず、絵を描くことで何を考え、何を発見することができるかということ。そして、「文化的な営みと豊かさ」あるいは「活力と潤いのある生活」とは何か、という問いについて考えることを目的としています。 また、グループ研究生として互いの親睦を兼ねたコミュニケーションを大切にし、互いの作品を認める楽しさを発見すると同時に表現の多様性について考え、アートの楽しさを伝えることで地域の芸術文化活動の普及と発展に寄与し貢献したいと願うものです。









 

♛ 山口県美術展覧会2019 2019年2月14日(木)−3月3日(日)9:00−17:00(入館は16:30まで) 
休館日:2月18日(月)、25日(月)
観覧料/一般:500(400)円 学生:400(300)円( )内は20人以上の団体料金
*18歳以下は無料 *70才以上の方、中東教育学校、高等学校、特別支援学校に在学する方等は無料 *障碍者手帳等をご持参の方とその介護の方1名は無料
山口県立美術館

IMG_0840.jpg
優秀賞 藤本スミ

入選 玉井康子

入選 中村みどり



佳作賞 浜桐陽子

原田文明の現況2021展


2021年5月19日wed−5月23日sun
10:00−18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール



本展は1990年代のはじめ頃から具体絵画として精力的に発表してきた一連の絵画作品とドローイングとインスタレーションによる新作13点で構成するのものです。













原田文明展 ドローイングインスタレーション2018


2018年11月21日wed−25日sun 10:00−18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール











ドローイングインスタレーションは、ここ十数年にわたって絵画表現の可能性について考えてきた一連の営為の中で、偶然とも必然ともいえる結果として発見されたものです。
私はこれまで「具体絵画」と称して、物質(素材)が表現目的の手段として扱われるのではなく、物質のあり方それ自体を色彩やフォルムと等しく絵画の重要な構成要素とする一連の作品を制作してきました。
ここでは行為と物質がもたらす一回性の出来事さえも絵画を成立させる重要な要素として捉え、作為的な感性によって空間へと展開されています。いうまでもなく、そのことによって生成される新しい意味と存在の可能性をリアルな知覚的世界として位置づけ、形而上学的な意味を問いかける主知的な営為と考えてきたのです。
さらに、その表現形式のあり方は平面的な二次元の世界から室内空間(場所)を構成する三次元的な世界へとその機能性を拡張し、ドローイングインスタレーションともいうべき様式へと変容させ意識化されてきたとも云えます。
私にとってもはや絵画は多元的な空間へと自在に移ろうイリュージョンの世界へと変容してきたと云うべきかもしれません。それは身体性を意識したメタフィジカルな実践として存在論的に見えかくれする場面への接近であり、換言すれば世界を包み込む現存(リアルな世界)への希求の現われというべきかも知れないのです。
本展はこれまでの多岐にわたる活動をふまえてたどりついた新作ドローイングインスタレーションの様式にさらに色彩的要素を取り入れることによって新境地への挑戦と可能性を探求する原田文明の現況とその一端を示すものです。

里の芸術一揆「里山 ART Project 吉賀」




本プロジェクトは隔年式のアートビエンナーレとして、将来の「地域」「文化」「くらし」を考える文化的なムーブメント(運動)をつくることを目的とするものです。また、地域の農耕文化や伝統に学び、芸術文化の振興発展と普及のみならず、「生活と芸術」「過去と現在」「人と地域」の交流を軸とする文化による地域づくりについて考えるものです。 このことは、吉賀町がこれまで取り組んできた自然との共存共生を願うエコビレッジ構想と合わせて、人間の営みとしての文化と里山の自然について考えることであり、里山に潜在する魅力とその可能性を再確認し文化意識の変革と活性化を推進するものです。 今回は、現代アートの最前線で活躍する8名のアーティストによる最新作を現地で制作し、地域住民とともにワークショップや生活文化など多方面での活発な交流が実現されるものと考えています。 2010年10月開催予定。

岩瀬成子話題の本棚


ジャングルジム(2022年ゴブリン書房)


ひみつの犬(2022年岩崎書店)
「いい人間になるのって難しいよ」とお姉ちゃんは言った。(p238)
児童文学として哲学的な問いをふくむシリアスな問題を子ども特有の感覚と生き生きとした表現で描いた長編物語。


わたしのあのこあのこのわたし(2021年 PHP研究所)

すれちがいながらも 助け合う ふたりの物語

秋ちゃんはすごく怒っていた。「とりかえしがつかない」と秋ちゃんはいった。
「二度と手に入らない」ともいった。どの言葉もわたしに命中した。
きいている途中から心臓がどきどきしはじめた。
わたしは秋ちゃんの怒った顔だけを見ていた。
秋ちゃんの怒りがどんどんふくらんでいくのがわかった。
秋ちゃんはわたしをゆるしてくれないかもしれない。


ネムノキをきらないで(2020年 文研出版)
この物語はおじいさんの家の庭にあるネムノキをきる話からはじまる。ぼくはネムノキをきることに反対だが枝がのびすぎてあぶなくなったから樹木医さんに相談して剪定してもらうことになった、ということだ。
「だめ、だめ。」と、ぼくは泣きながらいった。「こまったなあ。」とおじいさんはいった。お母さんはぼくの頭をなでようとした。ぼくはその手をふりはらった。「ばかだ。おとなはみんな大ばかだ。」ぼくにはもっといいたいことがあった。ネムノキについて。でも、どういえばいいかわからなかった。(…略)胸のなかは嵐のようだった。いろいろな気もちがぶつかり合っていて、どうすればもとのような落ち着いた気もちになれるのかわからなかった。(本文よりp16〜17)
家に帰った伸夫はつぎの朝、自分の部屋をでるとき何も知らずに柱をとおりかかったイエグモをつぶしてしまったことに気づく。


おとうさんのかお(2020年 佼成出版)

岩瀬成子の最新作「おとうさんのかお」が佼成出版社から出版されました。

「遠くを見ろっていったんだよね。おとうさん」と、わたしはいいました。「え」と、おとうさんはわたしをみました。「わたし、思いだした。このまえ、大川で思いだしかけていたこと。じてん車のれんしゅうをしていたときのこと。おとうさんは、『目の前ばっかり見てちゃだめ。もっと先のほうを見なきゃ』っていったよ」「そうだったかな」「『先のほうだけでもだめ、ときどき、ずっと遠くを見るんだ。ずっとずっと遠くだよ。山のむこう遠く』っていったよ」(本文よりp87)


もうひとつの曲り角(2019年 講談社)
野間児童文芸賞、小学館文学賞、産経児童出版文化賞大賞、IBBYオナーリスト賞など数々の賞を受賞する岩瀬成子氏の最新長編作品。

柵には半開きになった木の扉がついていて、その扉に「どうぞお入りください」と青色のマジックで書かれた板がぶらさがっていた。 「いやだ。あたしはそんなところへは、ぜったいに入らないから」ときこえた。 えっ。どきんとした。 庭木のむこうからだった。わたしにむかっていったんだろうか。 わたしは耳をすまして、木々にさえぎられて見えない庭のようすをうかがった。 しんとしていた。 だれがいるんだろう。 わたしはぶらさがっている板をもう一度見た。 それから足音を立てないようにして、そっと扉のあいだから庭に入っていった。しかられたら、すぐににげだすつもりだった。ちょっとだけ、のぞいてみたかった。──本文より。 小学五年のわたしと中一の兄は二ヶ月前、母の理想の新しい家、市の東側から西側へ引っ越してきた。この町で通い出した英会話スクールが休講だったので、わたしはふと通ったことのない道へ行ってみたくなる。道のずっと先には道路にまで木の枝が伸びている家があり、白い花がちらほらと咲いて・・・・。

日本絵本賞、講談社出版文化賞、ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、オランダ銀の石筆賞など受賞の酒井駒子氏による美しい装画にも注目!

地図を広げて.jpg

地図を広げて(2018年 偕成社)
父親と2人暮らしの鈴のもとに、母親が倒れたという知らせがとどく。母はそのまま亡くなってしまい、母親のもとにいた弟の圭が、鈴たちといっしょに暮らすことになった。 たがいに離れていた時間のこと、それぞれがもつ母親との思い出。さまざまな思いをかかえて揺れ動く子どもたちの感情をこまやかにとらえ、たがいを思いやりながら、手探りでつくる新しい家族の日々をていねいに描いた感動作。


ともだちのときちゃん(2017年 フレーベル館)
フレーベル館【おはなしのまどシリーズ】として出版された岩瀬成子の新刊『ともだちのときちゃん』は、イメージの広がりとこの年頃の子どもが経験する瑞々しい出会いにあふれています。(略)著者はそういう細部をみつめる子どもの感情をとてもよく描いていて、このお話しの最後のところでたくさんのコスモスの花にかこまれて青い空と雲をみつながら「ぜんぶ、ぜんぶ、きれいだねえ」とふたりの気持ちをつたえています。

517ydey48iL._SX361_BO1,204,203,200_.jpg
ちょっとおんぶ(2017年 講談社)
6才のこども特有のイノセントな感覚世界。この年ごろの人間だけが経験できる世界認識のあり方が本当にあるのかもしれない。あっていいとも思うし、ぼくはそれを信じていいようにも思います。名作「もりのなか」(マリー・ホール・エッツ)が普遍的に愛読されるのもこの点で納得できる気がするのです。
この本の帯にあるように、絵本を卒業する必要はないけれど絵本を卒業したお子さんのひとり読みや、読みきかせにぴったり!といえるかもしれません。どうぞ、手にとって読んでみてくださいね。

DSC02741 (480x640).jpg
マルの背中(2016年 講談社)
父と弟の理央が暮らす家を出て母と二人で生活する亜澄は、駄菓子屋のおじさんから近所で評判の“幸運の猫”を預かることに。野間児童文芸賞、小学館文学賞、産経児童出版文化大賞受賞作家による感動作!

51R+Apq-0JL._SX370_BO1,204,203,200_.jpg
ぼくが弟にしたこと(2015年 理論社)
成長の予兆を感じさせるように父と再会した麻里生には、次第に人混みにまぎれていく父の姿は特別な人には見えなかった。著者は帯にこう書き記している。どの家庭にも事情というものがあって、その中で子どもは生きるしかありません。それが辛くて誰にも言えない事だとしても、言葉にすることで、なんとかそれを超えるきっかけになるのでは、と思います。

141031_1706~01.jpg 
きみは知らないほうがいい(2014年 文研出版)
2015年度産経児童出版文化大賞受賞。
クニさんの失踪、クラスメートの関係性が微妙に変化するいくつかのエピソード、昼間くんの手紙、錯綜するその渦の中で二人の心の変化と移ろいを軸に物語は複雑な展開をみせる。
最終章、米利の手紙にはこう書いてある。それはぐるぐると自然に起きる渦巻のようなものだった。「いじめ」という言葉でいいあらわせない出来事があちこちで渦巻いている学校。
それでも明るい光に照らされている学校。そして苦い汁でぬるぬるとしている学校。学校よ、と思う。そんなに偉いのか。そんなに強いのか。そんなに正しいのか。わたしは手でポケットの上をぽんぽんとたたいた。

41J43ixHw8L._SS400_ (2).jpg
あたらしい子がきて(2014年 岩崎書店)
前作『なみだひっこんでろ』の続編のようでもあり、“みき”と“るい”姉妹のお話となっているけれど、ストーリーそのものはそれとはちがうまったく新しいものである。 ここでは、お母さんのお母さんとその姉、つまり“おばあちゃん”と“おおばあちゃん”という姉妹がいて、知的障害のある57歳の“よしえちゃん”とその弟の“あきちゃん”の姉弟が登場する。 このように“みき”と“るい”姉妹の周りにもそれぞれの兄弟が重層的に描かれている。
第52回野間児童文芸賞、JBBY賞、IBBYオナーリスト賞を受賞。

69663364.jpg
くもりときどき晴レル(2014年 理論社)
ひとを好きになるとどうして普通の気持ちじゃなくなるのだろう。誰でもこのような不思議な感情に戸惑いを感じることがある。恋愛感情とも云えないやりきれない気持ちの動きと戸惑いをともなう心理状態のことだ。 本著は、「アスパラ」「恋じゃなくても」「こんちゃん」「マスキングテープ」「背中」「梅の道」という6つの物語で構成された短編集であるけれど、思春期を向かえる少し前になるそれぞれの子どもの現在としてそのやわらかい気持ちの揺れを瑞々しいタッチで描いたもの。

413lMQXsDeL._SS500_.jpg
なみだひっこんでろ(2012年 岩崎書店)
今年度第59回課題図書に決定!

414gBTpL75L._SX334_BO1,204,203,200_.jpg
ピース・ヴィレッジ(2011年 偕成社)


大人になっていく少女たちをみずみずしく描く
「最後の場面のあまりのうつくしさに言葉をうしなった。私たちは覚えている、子どもからゆっくりと大人になっていく、あのちっともうつくしくない、でも忘れがたい、金色の時間のことを。」 角田光代
基地の町にすむ小学6年生の楓と中学1年生の紀理。自分をとりまく世界に一歩ずつふみだしていく少女たちをみずみずしく描いた児童文学。
偕成社から好評新刊発売中!

518ICmgpwKL._SS500_.jpg
 
だれにもいえない(岩瀬成子著・網中いづる画、毎日新聞社)


小さな女の子のラヴストーリー。
点くんをきらいになれたらな、と急に思った。 きらいになったら、わたしは元どおりのわたしにもどれる気がする。 だれにも隠しごとをしなくてもすむし、 びくびくしたり、どきどきしたりしなくてもすむ。(本文より)
4年生の女の子はデリケートだ。 せつなくて、あったかい、岩瀬成子の世界。 おとなも、子どもたちにもおすすめの一冊。

100917_2226~01.jpg
まつりちゃん(岩瀬成子著、理論社)
この作品は連作短編集という形式で構成され、抑制の効いた淡々とした表現で描かれているところが新鮮である。各篇ごとにちがった状況が設定され登場人物(老人から子ども)たちはそれぞれ不安、孤独、ストレスといった現代的な悩みを抱えている。その中で全篇を通して登場する“まつりちゃん”という小さな女の子は、天使のように無垢なる存在として現れる。その女の子と関わることによって物語は不思議なこと癒しの地平へと開示され、文学的世界が立ち上がるかのようだ。 岩瀬成子の新しい文学的境地を感じさせる魅力的な一冊ともいえる。

IMG_0104.jpg

オール・マイ・ラヴィング(岩瀬成子著、集英社)

■ 1966年、ビートルズが日本にやって来た!14歳の少女が住む町にビートルズファンは一人だけだった。 ■ 「オール マイ ラヴィング」とビートルズは歌う。聴いていると、だんだんわたしは内側からわたしではなくなっていく。外側にくっついているいろいろなものを振り落として、わたしは半分わたしではなくなる。ビートルズに染まったわたしとなる。 ■ 岩瀬成子の新刊、1月31日集英社から好評発売中。“あの時代”を等身大の少女の目でみつめた感動の書き下ろし長編小説 『オール・マイ・ラヴィング』 ■ ビートルズ ファン必見の文学はこれだ!

51dCgDlcLQL._SS500_.jpg
そのぬくもりはきえない(岩瀬成子著、偕成社)
■ 日本児童文学者協会賞受賞


朝はだんだん見えてくる 理論社.jpg
朝はだんだん見えてくる(岩瀬成子著、理論社) ■ 1977年、岩瀬成子のデビュー作。本書はそのリニューアル版で理論社の『名作の森』シリーズとして再発行されたもの。

selected entries

categories

archives

recent comment

recent trackback

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM