一人芝居「土佐源氏」

  • 2018.05.29 Tuesday
  • 11:59

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周防大島町出身の民俗学者・宮本常一さんの著作『忘れられた日本人』のなかでも超人気の「土佐源氏」、舞台役者・坂本長利(88)さんのライフワークになった一人芝居「土佐源氏」が6月10日(日)周防大島町文化センターで上演される。

今回の公演を主催する周防大島地人協会代表の山根耕治さん(53)は「坂本さんの土佐源氏は、宮本常一の世界を深く理解し、広がっていった芸術。宮本民俗学の再考と共に、町に演劇文化を広げるきっかけにしたい」としている。

また、当日は、宮本を主人公にした戯曲「地を渡る舟」で2015年文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞した劇作家・長田育恵さんも大島町を訪れ解説や坂本さんとのトークセッションも行われるというから楽しみである。

 

4年前、岩国でこの一人芝居「土佐源氏」をはじめて鑑賞したのだが本当に独特で印象的な芝居だった。それは、まさしく必見の舞台といっていい。ぼくの恩師・佐古利正先生の次男で役者の正人さんがあの山崎努の弟子ということで坂本長利さんとも親しくされていたということだった。

その正人さんが惜しまれて他界されたこともあってご長男の利南さんらが追悼公演をされたのだがこのときは残念ながらぼくは拝見できなかった。

 

「土佐源氏」は聞き取りの名手といわれた宮本常一さんの調査で遭遇した年老いた“盲目の馬喰の色話”と云ってしまえばそれまでだが、この国の時代とともにあった歴史や生活文化、一人の馬喰のみた人情味あふれる人間の生きざまがにじみ出すような芝居でその臨場感には圧倒された記憶がある。

 

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今や周防大島は、IターンやUターンで若い人の移住が話題になっていて何やらおもしろそうな活動とその動向が注目されている。

哲学から倫理学、教育学、さらに武道家としても超有名、「廃県置藩」などを提唱し田舎暮らしを応援するユニークで幅広い活動で知られる内田樹さんらを招いて、数々の講演をくりかえし第一次産業の復興に従事しながら新しい生き方を実践している。

一方、民俗学者・宮本常一氏の出身地ということもあってその顕彰を軸としたNPO法人周防大島町郷土大学などの取り組みも活発である。昨年も話題のミュージシャン寺尾沙穂さんや民俗学者・赤坂憲雄さんを招いてコンサートやトークセッション、シンポジウムなどを企画、作家・池澤夏樹さんらを招いていろいろな取り組みをしたり積極的な活動をしている。

赤坂さんはその後も朝日新聞紙上で寺尾沙穂さんとの往復書簡という形式で掲載され注目されたばかりだ。

 

6月10日(日)15時開演(14時30分開場)乞うご期待!

前売り券は3000円で、周防大島観光協会で販売。当日券は3500円。問い合わせは山根さん(090・4654・7797)へ。

ジャポニスム論の草分け

  • 2018.05.16 Wednesday
  • 14:14

ジャポニスム(大島清次著、講談社)

 

「学術をポケットに・・・」講談社の野間省一氏は学術を巨大な城のように見る世間の常識に反して学術の権威をおとすものと非難されるかもしれないが、それは学術の新しいあり方を解しないものといわざるをえないと明言する。また、開かれた社会といわれる現代にとって、このことはまったく自明である、としてこのシリーズの刊行意図について述べている。

 

19世紀後半のフランスにおける印象派美術は芸術至上主義の名のもとにいきづまり大きなまがり角にさしかかっていた。

そのような時代において成立条件も美意識さえも異なる日本の浮世絵、とりわけ北斎や広重、歌麿たちの肉筆画や版画表現や価値観がモネをはじめゴッホやロートレック、ゴーガンなど当時の印象派の画家たちに驚きをもってむかえられたという。

「ジャポニスム」はシリーズ刊行にあたってその意図を述べた野間氏のまなざしともかさなっているようにみえる。そもそも芸術や学問の世界自体が既成の価値観や美意識を相対化する作業と営みであることを思えば自明であることを疑う余地もない。

だが、日本の浮世絵の成り立ちが江戸町人の生活に根差した行為であったことはヨーロッパの芸術至上主義の状況下において重要な意味をもったにちがいない。

本著「ジャポニスム」の原本は1980年に美術公論社から刊行されたもので、その核をなす論考はさらに10年前にさかのぼる雑誌「萌春」に連載されたものである、と著者自身「原本あとがき」に記述している。

「ジャポニスム」とは何であったか。

その研究の“草分け的こころみ”となる本著では、とりわけエルネスト・シェノー、テオドール・デュレという二人の美術批評家をはじめサミュエル・ビングや林忠正らが果たした役割に注目している。このことは日本美術のみならず、茶道や禅といった粋やわびさびに通ずる美意識をもつ「総合芸術」ともいうべき江戸町人の生活文化に根をおろす「民衆芸術」など広範な比較文化論として受けとられ注目されたとしている。

モネやロートレック、ゴッホやゴーギャンならともかく、ルノアールさえも「非均衡」説にあわせるように「不規則主義宣言」等々こうした日本文化に影響されたというのも不思議に思えたのだが、シェノーの論考に刺激されたのだろうか。

 

日本美術における装飾性と工芸的要素の問題は個人的にもきわめて興味深い論点でもあるけれど、「ジャポニスム」論それ自体が構造的に近代やアイデンティティ論をともなう学問としての可能性をもつ体系的な文化論として構造主義的まなざしをもって注目されたことに驚かされた。

パリ万博といえば明治維新、西洋啓蒙主義と富国強兵につきすすむ日本の歴史と逆行するようなフランス美術界におけるジャポニスムという文化現象のあり方も不思議でおもしろいと思えた。

歴史はくりかえされるというけれど現代が直面する政治や経済産業問題、さらには地球環境規模の問題を考えるヒントが「ジャポニスム」論の中に見えかくれしているような気さえしてくるからなおさらである。

 

そういえば、デイビット・ナッシュやエコロジー美術の動向に注目し日本に紹介してくれたのも栃木県立美術館館長時代の著者・大島清次氏であったことを思いだしたところである。

大きな達磨の絵

  • 2018.05.12 Saturday
  • 09:58

 

作者のコメント『だるま』『ちょうちん』

この作品は日本の民芸品として伝えられる「だるま」と「ちょうちん」をテーマにして描いたものです。そういう意味では審査会で別々に制作された作品でありながらも「関連性」をもつものとして評価していただき同時に展示すべくご配慮いただいたことにたいへん感謝します。

絵を描きはじめてちょうど二年目三年目、今では少しずつ自然と手が動き出すのに自分自身びっくりでちょっと絵画らしくなってきたようで楽しくなってきました。

いずれも写真を使っていますが、なかなかバランスが保てず上から何度も頭の高低を修正しながらどうにかおさまりました。また、写真ではわかりにくく現場まで足を運んで写真と同じ日本家屋を探したり、どの位置から撮られているか、などいろいろ調べて確認したりして苦心しました。

 

 

 

まもなく完成か!「けっこう、時間がかかったなぁ・・・。」一般コースの中村さんが取りくんでいる60号の達磨の絵、やっと完成のメドが立ってきた。

中村さんは昨年末から高齢のお母さんやご主人のいろいろなアクシデントが重なった。

大変な状況にありながらそれでも淡々とマイペースで制作をつづけてきた。本当に強い人だなぁと畏れ入るばかり・・・。

その達磨の大作がもうすぐ完成するところまできた。手間のかかる作品ではあるが不思議なおもしろさがあっていい感じだ。おそくとも今月中には完成するだろう。

 

シュールレアリズム

  • 2018.05.03 Thursday
  • 20:23

今年はどういうわけか台湾の映画『日曜日の散歩者』(ホアン・ヤーリー監督作品)をきっかけにシュールレアリズム(超現実主義)に縁がありそうだ。読みかけの宮川淳著作集で知ることとなった福島秀子や本展作家となる阿部展也、今年の錦帯橋まつりで偶然にも骨董市で遭遇した木喰仏と円空仏、木喰研究家として知られる画家猪飼重明と彫刻家見崎泰中と繋がってくればそれこそシュールというほかない。それというのも若いころぼくが所属したシュールレアリズムの団体「美術文化」の大先輩ということになることを思えばどこか因縁めいたものを感じてしまうからかもしれない。

とはいっても阿部展也の作品にふれることはこれまでなかったし絶好の機会でもあり楽しみにしていたのだ。それも身近な広島市現代美術館で開催されるというのも何かの縁のようにも感じていたのである。 会場におかれていた本展図録をみても当館関係者の執筆もなかったし本当にどういう契機で実現したのか不思議な気がしていたのだ。

 

 

 

阿部展也のことはいろいろと美術文化の人からも聞かされていたので絶好の機会となった。

久しぶりの広島市現代美術館はとても気持ちのいい緑に囲まれていて嬉しい気分、新緑がとりわけ美しかった。

 

 

この日は程よい風にも恵まれて新宮晋の作品もいい感じで動いていた。ヘンリー・ムーアの前で遊ぶ家族連れの子どもたちも何となくのどかで気持ち良さそうにみえた。

 

 

それはともかく、はじめてみる阿部展也の作品は特に初期のころの鉛筆画やタブローが印象的だった。瀧口修造との詩画集『妖精の距離』(1937)にはとりわけ圧倒された。

阿部展也はおどろくほど多才な人で写真から評論活動のほかにも日本美術家連盟を設立たり、新しい欧米美術の動向を紹介したり、さらには西洋の中世における石仏の研究などその活動はきわめて多岐にわたる。

60年代のはじめからはアンフォルメルや具体、アクションペインティングなどの動向と歩調を合わせるようにエンコースティックを用いた抽象作品、さらにはアクリル絵の具によるシンプルな<カタチ>を主題にした作風へと転ずるが、具体美術や斎藤義重のオリジナリティと比較するとややインパクトに欠ける気がしたのだがどうだろう。

だが、同時代の作家として文学から美術、音楽をはじめ多様な表現活動における渇望ともいえる時代状況を感じさせるひとりであることは間違いないようにも思えた。

 

 

また、同館コレクション展「女たちの行進」に展示されていた福島秀子の一点にふれる機会にめぐまれたのもなんの因果かうれしいサプライズとなった。

この企画では展示された個々の作品自体はすばらしいのだが展覧会のコンセプトてしてはタイトルからは程遠いなんとも中途半端な内容というほかないように思えた。

 

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原田美術教室の活動


♛ 第16回絵画のいろは展
2023年11月15日wed〜11月19日sun
10:00〜18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール


この展覧会は、絵を描きはじめて間もない人から山口県美展・岩国市美展など他の美術コンクールや個展などで活躍している大人に加えて、これまでTRY展として活動してきた子どもたちを含む初心者から経験者までの作品を一堂に展示する原田美術教室の研究生およそ20名で構成するものです。 アトリエや教室での日ごろの研究成果を発表すると同時に、人と人、表現と表現のふれあうなかで単に技術の習得のみならず、絵を描くことで何を考え、何を発見することができるかということから、「文化的な営みと豊かさ」あるいは「活力と潤いのある生活」とは何か、という問いについて考える契機となることを願っています。 「絵画のいろは」とは、このように制作上の技術の問題だけでなく、日常生活での活力や潤いのある生活のあり方を考える実践的問いかけに他ならないのです。 特に今回は子どもたちの作品を含めて広く深くそのことを考える風通しのいい構成となっています。研究生として親睦を兼ねたコミュニケーションを大切にし、互いの作品を認める楽しさや表現の多様性について考え、アートのおもしろさを伝えることで地域の芸術文化活動の普及と発展に寄与したいと願うものです。














子どもの作品が大人気








♛ グループ小品展2024
2024年10月3日(水)〜10月6日(日)
10:00−18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール



この展覧会グループ小品展は、絵を描きはじめて間もない初心者から山口県美展・岩国市美展など他の美術コンクールや個展などで活躍している経験者までを含む原田美術教室の研究生で構成され、絵画のいろは展とともに隔年で開催するものです。 今回のグループ小品展では、日ごろの研究成果を発表すると同時に、人と人、表現と表現のふれあうなかで単に技術の習得のみならず、絵を描くことで何を考え、何を発見することができるかということ。そして、「文化的な営みと豊かさ」あるいは「活力と潤いのある生活」とは何か、という問いについて考えることを目的としています。 また、グループ研究生として互いの親睦を兼ねたコミュニケーションを大切にし、互いの作品を認める楽しさを発見すると同時に表現の多様性について考え、アートの楽しさを伝えることで地域の芸術文化活動の普及と発展に寄与し貢献したいと願うものです。









 

♛ 山口県美術展覧会2019 2019年2月14日(木)−3月3日(日)9:00−17:00(入館は16:30まで) 
休館日:2月18日(月)、25日(月)
観覧料/一般:500(400)円 学生:400(300)円( )内は20人以上の団体料金
*18歳以下は無料 *70才以上の方、中東教育学校、高等学校、特別支援学校に在学する方等は無料 *障碍者手帳等をご持参の方とその介護の方1名は無料
山口県立美術館

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優秀賞 藤本スミ

入選 玉井康子

入選 中村みどり



佳作賞 浜桐陽子

原田文明の現況2021展


2021年5月19日wed−5月23日sun
10:00−18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール



本展は1990年代のはじめ頃から具体絵画として精力的に発表してきた一連の絵画作品とドローイングとインスタレーションによる新作13点で構成するのものです。













原田文明展 ドローイングインスタレーション2018


2018年11月21日wed−25日sun 10:00−18:00
シンフォニア岩国企画展示ホール











ドローイングインスタレーションは、ここ十数年にわたって絵画表現の可能性について考えてきた一連の営為の中で、偶然とも必然ともいえる結果として発見されたものです。
私はこれまで「具体絵画」と称して、物質(素材)が表現目的の手段として扱われるのではなく、物質のあり方それ自体を色彩やフォルムと等しく絵画の重要な構成要素とする一連の作品を制作してきました。
ここでは行為と物質がもたらす一回性の出来事さえも絵画を成立させる重要な要素として捉え、作為的な感性によって空間へと展開されています。いうまでもなく、そのことによって生成される新しい意味と存在の可能性をリアルな知覚的世界として位置づけ、形而上学的な意味を問いかける主知的な営為と考えてきたのです。
さらに、その表現形式のあり方は平面的な二次元の世界から室内空間(場所)を構成する三次元的な世界へとその機能性を拡張し、ドローイングインスタレーションともいうべき様式へと変容させ意識化されてきたとも云えます。
私にとってもはや絵画は多元的な空間へと自在に移ろうイリュージョンの世界へと変容してきたと云うべきかもしれません。それは身体性を意識したメタフィジカルな実践として存在論的に見えかくれする場面への接近であり、換言すれば世界を包み込む現存(リアルな世界)への希求の現われというべきかも知れないのです。
本展はこれまでの多岐にわたる活動をふまえてたどりついた新作ドローイングインスタレーションの様式にさらに色彩的要素を取り入れることによって新境地への挑戦と可能性を探求する原田文明の現況とその一端を示すものです。

里の芸術一揆「里山 ART Project 吉賀」




本プロジェクトは隔年式のアートビエンナーレとして、将来の「地域」「文化」「くらし」を考える文化的なムーブメント(運動)をつくることを目的とするものです。また、地域の農耕文化や伝統に学び、芸術文化の振興発展と普及のみならず、「生活と芸術」「過去と現在」「人と地域」の交流を軸とする文化による地域づくりについて考えるものです。 このことは、吉賀町がこれまで取り組んできた自然との共存共生を願うエコビレッジ構想と合わせて、人間の営みとしての文化と里山の自然について考えることであり、里山に潜在する魅力とその可能性を再確認し文化意識の変革と活性化を推進するものです。 今回は、現代アートの最前線で活躍する8名のアーティストによる最新作を現地で制作し、地域住民とともにワークショップや生活文化など多方面での活発な交流が実現されるものと考えています。 2010年10月開催予定。

岩瀬成子話題の本棚


ジャングルジム(2022年ゴブリン書房)


ひみつの犬(2022年岩崎書店)
「いい人間になるのって難しいよ」とお姉ちゃんは言った。(p238)
児童文学として哲学的な問いをふくむシリアスな問題を子ども特有の感覚と生き生きとした表現で描いた長編物語。


わたしのあのこあのこのわたし(2021年 PHP研究所)

すれちがいながらも 助け合う ふたりの物語

秋ちゃんはすごく怒っていた。「とりかえしがつかない」と秋ちゃんはいった。
「二度と手に入らない」ともいった。どの言葉もわたしに命中した。
きいている途中から心臓がどきどきしはじめた。
わたしは秋ちゃんの怒った顔だけを見ていた。
秋ちゃんの怒りがどんどんふくらんでいくのがわかった。
秋ちゃんはわたしをゆるしてくれないかもしれない。


ネムノキをきらないで(2020年 文研出版)
この物語はおじいさんの家の庭にあるネムノキをきる話からはじまる。ぼくはネムノキをきることに反対だが枝がのびすぎてあぶなくなったから樹木医さんに相談して剪定してもらうことになった、ということだ。
「だめ、だめ。」と、ぼくは泣きながらいった。「こまったなあ。」とおじいさんはいった。お母さんはぼくの頭をなでようとした。ぼくはその手をふりはらった。「ばかだ。おとなはみんな大ばかだ。」ぼくにはもっといいたいことがあった。ネムノキについて。でも、どういえばいいかわからなかった。(…略)胸のなかは嵐のようだった。いろいろな気もちがぶつかり合っていて、どうすればもとのような落ち着いた気もちになれるのかわからなかった。(本文よりp16〜17)
家に帰った伸夫はつぎの朝、自分の部屋をでるとき何も知らずに柱をとおりかかったイエグモをつぶしてしまったことに気づく。


おとうさんのかお(2020年 佼成出版)

岩瀬成子の最新作「おとうさんのかお」が佼成出版社から出版されました。

「遠くを見ろっていったんだよね。おとうさん」と、わたしはいいました。「え」と、おとうさんはわたしをみました。「わたし、思いだした。このまえ、大川で思いだしかけていたこと。じてん車のれんしゅうをしていたときのこと。おとうさんは、『目の前ばっかり見てちゃだめ。もっと先のほうを見なきゃ』っていったよ」「そうだったかな」「『先のほうだけでもだめ、ときどき、ずっと遠くを見るんだ。ずっとずっと遠くだよ。山のむこう遠く』っていったよ」(本文よりp87)


もうひとつの曲り角(2019年 講談社)
野間児童文芸賞、小学館文学賞、産経児童出版文化賞大賞、IBBYオナーリスト賞など数々の賞を受賞する岩瀬成子氏の最新長編作品。

柵には半開きになった木の扉がついていて、その扉に「どうぞお入りください」と青色のマジックで書かれた板がぶらさがっていた。 「いやだ。あたしはそんなところへは、ぜったいに入らないから」ときこえた。 えっ。どきんとした。 庭木のむこうからだった。わたしにむかっていったんだろうか。 わたしは耳をすまして、木々にさえぎられて見えない庭のようすをうかがった。 しんとしていた。 だれがいるんだろう。 わたしはぶらさがっている板をもう一度見た。 それから足音を立てないようにして、そっと扉のあいだから庭に入っていった。しかられたら、すぐににげだすつもりだった。ちょっとだけ、のぞいてみたかった。──本文より。 小学五年のわたしと中一の兄は二ヶ月前、母の理想の新しい家、市の東側から西側へ引っ越してきた。この町で通い出した英会話スクールが休講だったので、わたしはふと通ったことのない道へ行ってみたくなる。道のずっと先には道路にまで木の枝が伸びている家があり、白い花がちらほらと咲いて・・・・。

日本絵本賞、講談社出版文化賞、ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、オランダ銀の石筆賞など受賞の酒井駒子氏による美しい装画にも注目!

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地図を広げて(2018年 偕成社)
父親と2人暮らしの鈴のもとに、母親が倒れたという知らせがとどく。母はそのまま亡くなってしまい、母親のもとにいた弟の圭が、鈴たちといっしょに暮らすことになった。 たがいに離れていた時間のこと、それぞれがもつ母親との思い出。さまざまな思いをかかえて揺れ動く子どもたちの感情をこまやかにとらえ、たがいを思いやりながら、手探りでつくる新しい家族の日々をていねいに描いた感動作。


ともだちのときちゃん(2017年 フレーベル館)
フレーベル館【おはなしのまどシリーズ】として出版された岩瀬成子の新刊『ともだちのときちゃん』は、イメージの広がりとこの年頃の子どもが経験する瑞々しい出会いにあふれています。(略)著者はそういう細部をみつめる子どもの感情をとてもよく描いていて、このお話しの最後のところでたくさんのコスモスの花にかこまれて青い空と雲をみつながら「ぜんぶ、ぜんぶ、きれいだねえ」とふたりの気持ちをつたえています。

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ちょっとおんぶ(2017年 講談社)
6才のこども特有のイノセントな感覚世界。この年ごろの人間だけが経験できる世界認識のあり方が本当にあるのかもしれない。あっていいとも思うし、ぼくはそれを信じていいようにも思います。名作「もりのなか」(マリー・ホール・エッツ)が普遍的に愛読されるのもこの点で納得できる気がするのです。
この本の帯にあるように、絵本を卒業する必要はないけれど絵本を卒業したお子さんのひとり読みや、読みきかせにぴったり!といえるかもしれません。どうぞ、手にとって読んでみてくださいね。

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マルの背中(2016年 講談社)
父と弟の理央が暮らす家を出て母と二人で生活する亜澄は、駄菓子屋のおじさんから近所で評判の“幸運の猫”を預かることに。野間児童文芸賞、小学館文学賞、産経児童出版文化大賞受賞作家による感動作!

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ぼくが弟にしたこと(2015年 理論社)
成長の予兆を感じさせるように父と再会した麻里生には、次第に人混みにまぎれていく父の姿は特別な人には見えなかった。著者は帯にこう書き記している。どの家庭にも事情というものがあって、その中で子どもは生きるしかありません。それが辛くて誰にも言えない事だとしても、言葉にすることで、なんとかそれを超えるきっかけになるのでは、と思います。

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きみは知らないほうがいい(2014年 文研出版)
2015年度産経児童出版文化大賞受賞。
クニさんの失踪、クラスメートの関係性が微妙に変化するいくつかのエピソード、昼間くんの手紙、錯綜するその渦の中で二人の心の変化と移ろいを軸に物語は複雑な展開をみせる。
最終章、米利の手紙にはこう書いてある。それはぐるぐると自然に起きる渦巻のようなものだった。「いじめ」という言葉でいいあらわせない出来事があちこちで渦巻いている学校。
それでも明るい光に照らされている学校。そして苦い汁でぬるぬるとしている学校。学校よ、と思う。そんなに偉いのか。そんなに強いのか。そんなに正しいのか。わたしは手でポケットの上をぽんぽんとたたいた。

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あたらしい子がきて(2014年 岩崎書店)
前作『なみだひっこんでろ』の続編のようでもあり、“みき”と“るい”姉妹のお話となっているけれど、ストーリーそのものはそれとはちがうまったく新しいものである。 ここでは、お母さんのお母さんとその姉、つまり“おばあちゃん”と“おおばあちゃん”という姉妹がいて、知的障害のある57歳の“よしえちゃん”とその弟の“あきちゃん”の姉弟が登場する。 このように“みき”と“るい”姉妹の周りにもそれぞれの兄弟が重層的に描かれている。
第52回野間児童文芸賞、JBBY賞、IBBYオナーリスト賞を受賞。

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くもりときどき晴レル(2014年 理論社)
ひとを好きになるとどうして普通の気持ちじゃなくなるのだろう。誰でもこのような不思議な感情に戸惑いを感じることがある。恋愛感情とも云えないやりきれない気持ちの動きと戸惑いをともなう心理状態のことだ。 本著は、「アスパラ」「恋じゃなくても」「こんちゃん」「マスキングテープ」「背中」「梅の道」という6つの物語で構成された短編集であるけれど、思春期を向かえる少し前になるそれぞれの子どもの現在としてそのやわらかい気持ちの揺れを瑞々しいタッチで描いたもの。

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なみだひっこんでろ(2012年 岩崎書店)
今年度第59回課題図書に決定!

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ピース・ヴィレッジ(2011年 偕成社)


大人になっていく少女たちをみずみずしく描く
「最後の場面のあまりのうつくしさに言葉をうしなった。私たちは覚えている、子どもからゆっくりと大人になっていく、あのちっともうつくしくない、でも忘れがたい、金色の時間のことを。」 角田光代
基地の町にすむ小学6年生の楓と中学1年生の紀理。自分をとりまく世界に一歩ずつふみだしていく少女たちをみずみずしく描いた児童文学。
偕成社から好評新刊発売中!

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だれにもいえない(岩瀬成子著・網中いづる画、毎日新聞社)


小さな女の子のラヴストーリー。
点くんをきらいになれたらな、と急に思った。 きらいになったら、わたしは元どおりのわたしにもどれる気がする。 だれにも隠しごとをしなくてもすむし、 びくびくしたり、どきどきしたりしなくてもすむ。(本文より)
4年生の女の子はデリケートだ。 せつなくて、あったかい、岩瀬成子の世界。 おとなも、子どもたちにもおすすめの一冊。

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まつりちゃん(岩瀬成子著、理論社)
この作品は連作短編集という形式で構成され、抑制の効いた淡々とした表現で描かれているところが新鮮である。各篇ごとにちがった状況が設定され登場人物(老人から子ども)たちはそれぞれ不安、孤独、ストレスといった現代的な悩みを抱えている。その中で全篇を通して登場する“まつりちゃん”という小さな女の子は、天使のように無垢なる存在として現れる。その女の子と関わることによって物語は不思議なこと癒しの地平へと開示され、文学的世界が立ち上がるかのようだ。 岩瀬成子の新しい文学的境地を感じさせる魅力的な一冊ともいえる。

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オール・マイ・ラヴィング(岩瀬成子著、集英社)

■ 1966年、ビートルズが日本にやって来た!14歳の少女が住む町にビートルズファンは一人だけだった。 ■ 「オール マイ ラヴィング」とビートルズは歌う。聴いていると、だんだんわたしは内側からわたしではなくなっていく。外側にくっついているいろいろなものを振り落として、わたしは半分わたしではなくなる。ビートルズに染まったわたしとなる。 ■ 岩瀬成子の新刊、1月31日集英社から好評発売中。“あの時代”を等身大の少女の目でみつめた感動の書き下ろし長編小説 『オール・マイ・ラヴィング』 ■ ビートルズ ファン必見の文学はこれだ!

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そのぬくもりはきえない(岩瀬成子著、偕成社)
■ 日本児童文学者協会賞受賞


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朝はだんだん見えてくる(岩瀬成子著、理論社) ■ 1977年、岩瀬成子のデビュー作。本書はそのリニューアル版で理論社の『名作の森』シリーズとして再発行されたもの。

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